「西郷の貌」
「西郷の貌」 祥伝社文庫
小説なのか、ノンフィクションなのか分からずに購入した。とりあえず中身は小説である。だが、筆者が恐らくは自らの経験を元にして、書き綴ったものだろう。
あれは実は絵であり、西郷と会った事もない画家の描いた物である。と言うのがこの小説の出発点でもある。
幕末の宣教師、フルベッキと言う人と写る武士多数、所謂、「フルベッキ写真」と言うものがある。フルベッキとその子を囲む44人の武士の写真である。当初、佐賀藩校の学生とともに写されたと言われていたが、幕末志士たちの集合写真であると言う説があり、写真に写る人間たちの正体探しが始まった。
だが、この写真が明治元年に写されたものであると言う説において、信憑性は薄らぐ。この写真に写る事のない、坂本竜馬や、中岡慎太郎、高杉晋作だ。すでに暗殺されたり、死んだりしている。ならばこの写真は何なのだ?
更には、後の明治天皇が写っていると言う驚愕の説である。大室寅之祐と言う人が、睦仁親王(明治天皇の父親である孝明天皇の実子)と入れ替わったと言う。ここまでくると、ちょっと眉唾ものだが、歴史ミステリーとしては面白い。
この小説では、新たに発見された「十三人撮り写真」にも、西郷が写っていると言うものである。確かに「フルベッキ写真」の西郷と酷似している。この人が西郷隆盛なのであろうか?
考えるに、歴史と言うのは時の権力が塗り替えるものである。真実とは異なる。西郷は確かに明治維新の立役者ではあったが、西南戦争において明治政府に楯突き、反逆者になったのは言うまでもない。歴史から消されるべき人物が、今なお圧倒的人気を誇る歴史上の大人物である。何故か?
著者の加治将一氏の疑り深さには正直呆れるが、その疑いにより、可能性のありそうな諸説が発しているのも確かである。
こう言う人たちの努力で、色々な歴史が作られるのも楽しい。だが、この歴史をどう判断するのは自分自身である。
追伸
「フルベッキ写真」や「十三人撮り写真」はネットで検索すれば簡単に見られます。興味のある方はどうぞ。