ゆかちゃんと織姫様
ゆかちゃんと織姫様
ゆかちゃんはおじいちゃんが大好きです。
おばあちゃんも大好きなのだけれど、おばあちゃんは去年亡くなってしまいました。
ゆかちゃんはさみしそうなおじいちゃんがかわいそうでなりませんでした。
おじいちゃんは一軒家に一人で住んでいます。そのとなりのとなりのお家が、ゆかちゃんの住んでいるアパートなので、パパとママがお仕事に行ってる間は、おじいちゃんと遊ぶのです。
今日はおじいちゃん、が絵本を読んでくれました。今日は七夕なので「織姫と彦星」でした。
「むかしむかし、夜空に光る天の川のほとりに、織姫というそれはそれは美しい娘がいました。天帝の娘ではたを織るのがお仕事でした」
「てんてーってなぁに?」
と、ゆかちゃん。
「うーん。天帝というのはじゃな、天の王様みたいなもんじゃな」
「ふ~ん」
「それで織姫は天帝の、いや、お父さんって言った方が分かりやすいな。お父さんの言いつけを良く守る、良く働く、良い子でした」
「うんうん」
「しかし、あまり一生懸命お仕事をするので、恋をする暇もありませんでした。そこで、わかいそうに思ったお父さんは、天の川の西側に住む彦星という青年と結婚させてあげました」
「パパとママもケッコンしたよ」
「そうじゃ、そうじゃ、ゆかは良く知ってるな」
おじいちゃんはゆかちゃんの頭を撫で回して褒めて上げました。
「ところが、織姫は彦星に夢中になってしまい、あんまりお仕事をしなくなってしまいました。最初は新婚だから大目に見ていたお父さんも、あまりにいつまでも続くので、怒って織姫を天の川の東に移してしまいました」
ゆかちゃんはおじいちゃんのひざの上で心配そうに絵本を覗きこみました。
「お父さんは織姫にこう言いました。
『心を入れ替えて、ちゃんとお仕事をするなら、一年に一度、七月七日の夜彦星とあわせてやろう』
織姫は悲しくて、悲しくて仕方ありませんでしたが、でも彦星に会いたい一心で一生懸命にはたを織りました。
彦星も織姫が大好きだったので、一生懸命働いて、働いて、二人は毎年、毎年、指折り数えて、七月七日を待ちました。
でも待ちわびた七月七日に雨が降ると、天の川の水が溢れ、織姫は向う岸に渡れないのです」
「ええ~~かわいそう。一年に一日しか会えないのに」
「だいじょうぶじゃ、そんな時はな、どこからともなくかささぎの群れがやって来て、天の川の上で翼を広げて橋になり、織姫様を渡してくださるんじゃ」
「そうなのか~~」
「はい、おしまい」
「ねぇ、おじいちゃん。織姫様はどこに住んでるの?」
おじいちゃんははたと困りました。天空と言うのはどう説明したものでしょうか?
「そうじゃなぁ、そ、そ、天国じゃよ、天国」
「天国なの!!」
「う、うん」
ちょっといい加減だったかな、とおじいちゃんは焦りました。子供相手だからと言て、適当な事を言うのはゆかちゃんにとってよくないとは思うのですが、とっさに言ってしまいました。
「ゆか、いいこと考えちゃった!!」
ゆかちゃんはおじいちゃんのひざから飛び降りると、以前はおばあちゃんが使っていた部屋にぱたぱたと走って行きました。
今はその部屋にはゆかちゃんのおもちゃや、おえかき道具やらが置いてあります。
「さてさて、どうしたもんじゃろう…」
おじいちゃんはまだ考えていました。天国ってのはちょっとまずかったよな~、あれは死んだ人が行くのだからなぁ~~。
「ねぇねぇ、おじいちゃん!!」
ゆかちゃんはカレンダーを四つに折った様な紙を持ってきました。
「願い事書いて、木にくっつけると、かなうんでしょう?」
「うんうん、短冊の事じゃな、ちっとばかり大きいがまぁ、いいじゃろう」
「ゆかんち、木がないからおじいちゃんちでくっつけてよ」
「そうか、そうか、お安い御用だ。なんのお願いしたんだ?」
「ひみつだも~ん」
そこにママが帰ってきました。そこで話しは途切れ、おじいちゃんは特大の短冊を預かると、ママはご飯の支度をして、三人で夕ご飯を食べました。
ママとゆかちゃんは自分のアパートに帰りました。パパは帰りが遅いので、一人でご飯を食べます。
その夜、おじいちゃんは約束通り、ゆかちゃんの特大短冊を笹に付けようと庭に出ました。
何をお願いしたのやら…。ちょっと見て見る事に…。
おりひめさま
あのね、おりひめさまはてんごくにすんでるんでしょ?
じゃぁ、うちのおばあちゃんもいるんでしょ?
おりひめさまが、ひこぼしさまとあうときにね、
おばあちゃんもつれてきてください。
おじいちゃんとあわせてください。
あのね、おじいちゃん、おばあちゃんがいなくなってから
とってもさみしそうなの
だからおねがいです。
いちねんにいっぺんでいいんです。
おねがいします
ゆか
おじいちゃんは目頭を押さえながらつぶやきました。
「天国でも…いいかなぁ、しばらく…」
おじいちゃんは、ゆかちゃんの特大短冊を笹の木に括りつけると
満天の夜空を見上げました。
そこかしこに散らばる天の川の星が寄り集まったかと思うと、
おばあちゃんの顔になり、にっこり笑ったように、おじいちゃんには
見えました。