「ライア＆ソネット」村治佳織

「ライア＆ソネット」
村治佳織　THE SIXTEEN HURRY CHRISTOPHERS

デッカ（イギリスのメジャーレーベル）移籍後の第三弾のアルバムです。
ＣＤの帯には「ライア＆ソネットは古いイギリスのことばでリュートと歌声と
いう意味です」とあります。
このアルバムに関して言えば、ギターと合唱という意味なのでありましょう。

今回のアルバムはなんと合唱とギターのコラボレイトなのです。
事前にその情報を得た私は困惑しました。私の堅苦しい頭では歌とギター
ならば、ギターは伴奏ではないのか？という貧困な発想しか出てきません。
しかし実際に聞いて見るとそれは杞憂でありました。

合唱は、現在イギリスで活躍中のコーラスグループ、ハリー・クリストファーズ
指揮ザ・シックスティーンです。実は全然知りません。無論聞いたこともあり
ません。いったいどんな音になっているのかおっかなびっくり聞いてみました。


トラック１では美しい女性ソロヴォーカルが奏でる戦慄にギターが絡み、そこに
厚みはあっても決して重圧ではないコーラスがかぶさっていきます。素晴らしい
合唱に驚くとともに、少し違和感を覚えました。
なんだかバラバラに聞こえる。これ、ギターがなくても充分に聞けるのでは？
それにコーラスが厚みを増すと、ギターの音はかなり埋もれてしまう気が
します。
しかし、その違和感はアルバムを聞き終える頃には解消していました。自分
なりに考えるところによれば、今まで殆ど聞いたことのない合唱という言わば
聞き慣れない「音」と、聞き過ぎる程聞いたギターの「音」が、自分の頭の中で
別々に鳴り響いて「アンサンブル」として捉えてなかったのではないか、という事
です。
その違和感は特に「カノン」で顕著でした。今まで歌のあるカノンなど聞いたこと
はないし、それに対し、ギターアレンジの「カノン」はいくらでもあります。別々に
響き渡る音に、融通の効かない私の感性がついていけないようでした。

要するに、今までこういった形でのコラボレイトを聞いたことがなく、何回か
聞き返すうちにようやくこれらの音が「アンサンブル」として聞こえた時に、私の
感性は狂喜したのでした。
ギタリストのアルバムだからとて、常にギターが前面に押し出されてなければ
ならないと言うものではありません。私にとっては前代未聞のアプローチに
よってもたらされたこの新しい音に、今は唯々喜んでおります。

ギターソロの曲も五曲あります。「アルハンブラの想い出」の正確無比なる
トレモロには脱帽です。
その容姿ゆえに、とかくアイドル扱いされる感のある彼女ですが、その実力
は、数々のコンクールでの最年少優勝記録や、十五歳のデビュー、そして
今は亡き巨匠、ロドリーゴが認めたほどの筋金入りです。
しかし、ギター一本鎗の力技だけでなく、こうしたコラボレイト等によってその
音楽性を高めて欲しいと思います。

さてさて…実はまださほど聞きこんではいません。
しばらく楽しめそうなアルバムに、秋の夜長は更けて行きます…かな？


こちらから何曲か視聴できますよ。おためしあれ。
http://www.universal-music.co.jp/classics/kaori_muraji/discography.html


1. 母さま、私は恋を抱いて（フアン・ド・アンチエータ）

2. アルハンブラの想い出（タレガ）(*)

「ロマンセロ・ヒターノ」ガルシア・ロルカの詩による７つの歌～第４曲：プロセシオン（行列）（カステルヌオーヴォ=テデスコ）
3. 1. プロセシオン
4. 2. パソ
5. 3. サエタ
6. おお何と栄光に満ちた王国なのか　part 1（ルイス・デ・ビクトリア）
7. おお何と栄光に満ちた王国なのか　part 2（ルイス・デ・ビクトリア）
５つの前奏曲（ヴィラ=ロボス）
8. 第１番 ホ短調(*)

9. 第３番 イ短調
10. 第２番 ホ長調(*)
11. 第４番 ホ短調
12. 第５番 ニ長調(*)

13. あがない主の恵み深き母よ　part 1（ルイス・デ・ビクトリア）
14. あがない主の恵み深き母よ　part 2（ルイス・デ・ビクトリア）
15. カノン（パッヘルベル）

16. 神は私たちを憐れみ（タリスのカノン）（タリス）
17. 13のカタルーニャ民謡～第13曲 盗賊の歌（リョベート）(*)
18. ブラジル風バッハ第５番～アリア（カンティレーナ）（ヴィラ=ロボス）

19. ア・ネグリート・デ・ククルンベ（Ｇ．フェルナンデス）
日本盤のみのボーナス・トラック
20. ダッタン人の踊り（歌劇《イーゴリ公》より）（ボロディン）



村治佳織（ギター）(*)＝ギターソロ
ザ・シックスティーン（コーラス）
録音：2006年7月 ロンドン〈デジタル録音〉
CD：UCCD-1176 \3,000 (\2,857) デッカ [2006年10月25日発売]