yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「ガンコじじぃ」


ガンコじじぃ

僕の会社にはガンコじじぃがいる。
ガンコじじぃは来年で70歳になる。
僕のおじいちゃんくらいになるのだろう。
いつも僕の顔をみるとやって来て、
ぺしぺしと頭を叩く。

痛いからやめろと言うがやめない。
いや、かえって言うと余計に叩くので、黙っていると、
どこかへ行ってしまう。


ガンコじじぃは昨日と一昨日、会社を休んだ。
この会社に30年勤めている大先輩が、
ガンコじじぃが病欠するなんてはじめてだ、と驚いていた。
先輩は病欠に驚いたが、僕は30年も病欠しないガンコじじぃ
に驚いた。

ガンコじじぃはこの会社に50年いる…。
僕の親が生まれるか、生まれないかって時からいる。


ガンコじじぃは力持ちだ。それも並の力持ちではない。
本人は、もう歳だから重い荷物が持てなくなったと嘆く。
でも、100キロくらいある荷物を、奇声とともに下ろす。
持てなくなって100キロなのか?

若いときはどれくらい持てたのか聞くと、
両手に花の、女の子にもてた、と下らない事を言う。
付き合いきれないので、行こうとすると、
うそだ、うそだ。130キロは持てたぞ、といばる。
スーパーマンも尾っぽを巻いて逃げだすようなじじぃなのだ。


ガンコじじぃは人助けが大好きだ。
殆どは勘違いなのだが、人が困っていると思い込んで
飛んでくる。実にいろいろな事をやってくれるのだが、
その殆どが「余計なお世話」なのだ。

余計なお世話なのだが、本人の使命達成感は素晴らしいらしく、
約10日間は恩着せがましい事を言われる。
でも10回に1回くらいは、本当に助かる事もある。


ガンコじじぃは、二言目には「おっかぁ、おっかぁ」と言う。
凶悪な面構えをしてるくせに、奥さんにはぞっこんなのだ。
そのおっかぁが、去年亡くなった。

会社のみんなで葬儀に参列した時、「鬼の目に涙」を見た。
両手に花の女の子にもてた、なんて嘘だ。
ガンコじじぃは、おっかぁ一筋に決まっている、と思った。
今でもガンコじじぃは、おっかぁが生きてる時はよぉ、と言う。

ガンコじじぃの中で、おっかぁはまだ生きているらしい。


ガンコじじぃは、実にうるさい。
世界最強の小姑と異名をもっている。余計なお世話攻撃と、
口うるさい小姑攻撃はガンコじじぃの売りなのだ。
だから、みんな、うるさくて、余計なお世話なガンコじじぃが
大嫌いだ。


そのガンコじじぃが今日、死んだ。
病院から連絡があって、社長が神妙な顔付きでみんなに伝えた。

なんでそんな急に・・・。
3日前はピンピンしてたじゃないか。
みんなが号泣した。なんで泣くの?大嫌いなくせに。

僕も泣いた。僕もみんなには、ガンコじじぃは嫌いだと言っていた。
でもそれは嘘だ。本当は大好きなのだ。
でもそれは挨拶のようなもので、大好きなんていうと、
ガンコじじぃはつけあがるからだった。
きっとみんなも同じなのだ。だから泣いたのだ。

余計なお世話ばかりだったが、でもみんな、なにか一つくらい
ガンコじじぃに助けられていた。普段嫌っているくせに、
なにかあるとガンコじじぃを頼った。

「これから誰を頼ればいいんだよ」
葬儀の帰り、夜空を見上げながら、僕はつぶやいた。

ガンコじじぃはやっぱり、おっかぁの側が良かったのだろう。
ガンコじじぃは星になったのだ。
この広い夜空のどれかの星になったのだ。
そして、その隣の星がきっとおっかぁなのだ。