幼過ぎる命…
明日は休みなので、例によって、忙しい一日…。
それに加えて、この猛暑ですから、体力の消耗も甚だしく、
青色吐息で、会社を出ました…。
ある大病院の納品…。
地下1階から、13階まで荷物を運びます。
地下1階のエレベーターホールでは、清掃業者のおじさんと、
医師の方らしい方が話していました。
先生は両手に大きな箱を抱えておりました。
うる覚えですが、縦、長さ、高さで、40センチ、70センチ、50センチ
ってとこでしょうか?
なんだか、かわいいキルティングのカバーがしてあるのです。
黄色のいろんな模様がかわいらしいカバーでした。
なんの箱?
先生と掃除さんの会話が断片的に飛び込んできました。
なぜか、ひそひそ話し…。
先生 「戸籍、まだ、ない訳ですからね」
おじさん 「そりゃ、そうですね…」
先生 「かそう手続きにしてもね…」
なんの話? 分からないけど…。
かそう手続きって何?
エレベータは上昇し、途中で先生は降りました。
二人のこされた機内で、私は清掃業者のおじさんに聞いてみました。
「先生の持ってた、あの黄色い箱、なんですか?」
「あれ…? あれはね、赤ちゃん…」
「・・・!?」
( ̄□ ̄;)!!
赤ちゃん???
おじさんは続けました。
「死産だったんだってさ、あのさ、生まれる前だったんだってさ…」
「赤ちゃんって…」
「帝王切開とかじゃないの? 生まれる前に死んじゃったんだって。
かわいそうだね…」
あの箱は、赤ちゃんの棺桶だったのか…。
あまりのショックに、絶句してしまいました…。
あの箱の中に…、
かわいらしい黄色のキルティングカバーの箱…。
あの中に、せっかく、お母さんのお腹に生を受けながら、
一度も世の中を見ずに、その営みを終えてしまった子がいたのか…。
12階でおじさんは降りました…。
「かわいそうだね…」
つぶやくように言っていた…。
でも、私には感傷に浸るような余裕は無かった…。
目の回るような忙しさの中に没頭し、仕事をこなすのに
精一杯の一日でした…。
労働基準法など、せせら笑うような労働環境の中、
ようやく帰宅して、酒を飲んでいるうちに思い出したのです。
勝手な想像なのです…。
あの子は、女の子だったような気がする…。
あの子のお母さんのダメージは尋常ではないでしょう…。
精神的には、勿論、帝王切開による身体への損傷も並大抵ではない。
あの子に言いたいのです…。
お母さんは、だいぶまいってるよ…。
あなたが死んじゃったからね…。
でも、あなたを責めてなんかいないよ。
あなたのせいじゃないからね。
だから、天国にいるあなたにお願いがあります。
お母さん、今は、どん底で苦しんでいるけれど…、
いつかきっと立ち上がるよ…。
そしたら…、
お母さんのお腹に、戻っておいで…。
いいね。
約束。
飲みすぎで、ふらふらとした頭の中に、
かわいい女の子の顔が、こくりとしたように見えたのでした…。