yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「逃避行」 篠田節子

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「逃避行」 篠田節子 光文社文庫


篠田節子さんは、私の「安心買い」作家の一人である。
裏表紙の能書きなど確認することなく、読んでない作品なら、即買う。

本作も同様に、何冊かまとめた買ったうちの一冊だった。
しばらく放置してあったのだが、今朝、偶然見つけて読み出し、
一気に読み終わった。

「逃避行」というタイトルから、追っ手から逃げる犯罪者か?
許されぬ恋に落ちた男女の物語か?

発想の貧困なる私にはその程度しか思い当たらない。
しかし、逃げたのは、なんと、中年女と彼女の飼い犬であった。


専業主婦の妙子は、家族のためだけに、身をすり減らし、
時間を使い果たして50歳を過ぎていた。
そんな生活の中、愛犬、ゴールデンレトリバーのポポは、
隣家の子供を噛み殺してしまう。

非は子供に十分あった。
しかし、子供が死んだ時点で、犬は狂犬扱いされた。
格好のネタに飛びつくマスコミ、 近隣の「犬を殺せ」の大合唱。
家族同様だったはずのポポに、妙子以外の家族は誰も味方しなかった。

妙子は人間の絆の弱さを知った。
そして、彼女はポポを連れて、逃げたのだった。


世間を知らぬ、専業主婦の妙子にとって、
大型犬を連れて逃げる事は、容易な事ではない。
人の絆の弱さを知った妙子は、家族を欺き、親戚を脅かし、
ポポだけのために行動する。

舞台は八王子から西へ、西へと動く。

やっとたどり着いた地で、妙子も、ポポも変わっていく・・・。


この小説に時おり出てくるフレーズがある。

「人は犬を裏切るけど、犬は人を裏切らない」

その通りであろう。
犬とは、なんと悲しい動物か・・・。 とふと考えてしまうが、
悲しいのは、本当は人間の方か・・・。
信じあって生きていけないのが人間か・・・。



実は、私は犬が大好きである。
よちよちと歩くミニチュアダックスなんぞがいると、
しばらく眺めては、「かぁ~~~いい~~!!」と思う。
どでかいセントバーナードなんかでもついさわりたくなってしまう。

そして大きい犬を見るたびに思うのだ。
中型犬以上の大きさならば、人間を噛み殺すことなど造作ない。
戦闘能力において、人間は犬の比にならない。
しかし、犬は飼い主を信頼する。
えさを貰うという、利害関係だけで結び付いているのでもない。
主人の生命を犬が救ったなどという、手柄話はいくらでもある。

犬は、相手が例え人間であろうとも、信頼関係を構築できるのだ。
そしてその信頼感は深く、強い。
人間はどうか?

言うに及ばない。 人間ほど同種で信頼を結べない生物はいない。
同種で信頼を結べないものが、犬との信頼など結べる筈がない。
だから、毎日、保健所では多数の「捨て犬」が処分されるという
悲劇が起きる。
捨てられた犬たちは、決して主人を恨んだりしていないのに・・・。


妙子が失ったのは家族への信頼であった。
ポポとの絆を守るため、妙子は全てを捨てた。


絆とは何なのか?
信頼とは何なのか?
家族とは?
生きるとは?

重い要素を多分に含んだ作品と言える。
犬が好きな人にはゼヒお勧めしたい。


今のところ・・・、
篠田節子さんにハズレなし。