yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「オリンピックの身代金」 奥田英郎

「オリンピックの身代金 上下」 奥田英郎 角川文庫
 
 
 
イメージ 1
イメージ 2
 
 
 
映画、「ALWAYS 三丁目の夕日」は昭和39年が舞台である。
1964年、言わずと知れた東京オリンピック開催の年である。
当時、私は三歳。残念ながら東京オリンピックの記憶は無い。
貧乏だった我が家にテレビがあったのかも定かではない。しかしながら、
鉄腕アトム」、「鉄人28号」、「エイトマン」などのアニメの記憶なら
かすかに残っているので、もしかしたらあったのかもしれない。
もちろん、これらのヒーローに色はなく、モノクロ映像である。
本作は同じ昭和39年の東京が舞台なのだ。
 
 
オリンピック開催の東京では、急ピッチで会場の建設や
インフラ整備に追われていた。敗戦国から成り上がり、
先進国の仲間入りをしようと、熱狂していた。
しかし、高度成長などと全く関係が無い地方もたくさんあった。
当時、「格差」などと言う言葉すらなかったが、疲弊した地方など
置き去りにして、東京は暴走していくのだった。
 
秋田の貧しい家に育った島崎だったが、勉強が出来たので、
家族の協力もあって東京大学に進学することが出来た。
しかし、島崎は東京で兄の急死の知らせを受ける。
東京の建設現場で働いていた兄が亡くなったのである。
自分を支えてくれた兄に倣い、島崎も建設現場で働きだした。
そして彼は過酷な現実を目の当たりにして見るのである。
権力は、労働者から全てを搾取している。
彼にとってそれは幼稚な正義感ではなかった。
そして、彼はテロリストとして変貌していく。
 
 
警察官僚自宅と、警察学校での爆破事件で幕は上がる。
国家の体面をかけて、全ての捜査が秘密裏に行われた。
しかし、テロリストはオリンピック開催を粉砕すべく、
たまたま知り合ったスリ師と組んでこれに立ち向かう。
 
 
 
主人公は犯罪者である。だからピカレスクロマン(悪漢小説)とも
思える。しかし、彼が悪とは思えないような展開に困惑する。
東大生と言う、絶対エリートの座を捨ててまで何故そうするのか。
弱者の立場を知り過ぎて、強者の横暴を許せなかったのか。
本当の正義とは何なのか。
 
物語が進むにつれ、彼に対する思い入れが強くなっていく。
 
 
強烈な光には、必ず影がある。
光には誰しもがあやかりたい。
しかし、光がある限り、影はどうしても出来るのだ。
かろうじて、自分が生きていた時代。
そんな時代の光と影を、ちゃんと理解するのは大切な事だ。