yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

桐野夏生 二



桐野夏生について 二


 明日書くと言って、一日開けてしまいしたすいません。

 前回の続きで言えば、桐野夏生は93年、「顔に降りかかる雨」で第三十
九回江戸川乱歩賞を受賞した。読んだのはもう大分前で、ストーリーの記
憶もおぼろげである。
 私は基本的に文庫本でしか本を読まないので、当然読んだのはリアルタ
イムではなく、続編の「天使に見捨てられた夜」や、もしかしたら「OUT」当
たりも文庫化していたのかもしれないので、桐野夏生がすでに作家として
の地位をある程度確立していた時期である。

 デビュー作を読んで、思った。

文庫本だから、解説がついているが、この解説者がやたらと「女流ハード
ボイルド作家」と謳う。
 私もそれまで何気なく「ハードボイルド」なる言葉を使用して来た。北方謙
三や大薮春彦
車、銃、女、暴力、セックス、社会の底辺で燻ってる男たちが溜飲を下げ
る小説。強靭なる精神と肉体を持った、スーパーヒーローが、幾多の困難を
乗り越え、ラストシーンで、男は哀愁を帯びて去って行く。
 誤解を怖れずに言うなら、男の慰み小説と言えるだろう。

 だいたいが「ハードボイルド」って「固ゆで」って意味であろう。ちょっと調
べてみたら、


ハードボイルド (hardboiled) とは、元来は「堅ゆで卵」(白身、黄身の両方
ともしっかり凝固するまで茹でた鶏卵)のこと。転じて、ミステリーの分野の
うちでも、感傷を排して、ことさらに文体や主人公の性格、行動などの冷
静さ、一部には冷酷を装った内容をもつ作風の小説や映画のことをいう。

 とあった。
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 これを真に受けて考えるならば、「顔に降りかかる雨」は断じてハードボイ
ルドではない。主人公の女探偵、「村野ミロ」は、冷静でも冷酷でも、なんで
もなく、時に、軽率で、愚かで、感情的で、弱くて、決して「感情を排する」事
の出来るようなスーパーヒーローではないのだ。
 だからこそ、それが、同年代女性の共感を得たのであろう。この作品での
ミロは三十代前半だったと記憶している。
 女性がいかなるところで共感を得たのかは、男性の私の理解に遠い所で
はあるが、ともかくも私は、この著者の他の作品を読みたくなったのは言うま
でもない。

 続いて読んだのが、続編に当たる「天使に見捨てられた夜」である。これ
も内容的には、女探偵「村野ミロ」が活躍する物語だ。
 しかし、ミロは、シャーロック・ホームズでも、エルキュール・ポアロでも、
明智小五郎でもない。あらんことか、この物語の中で、ミロは敵方の男と
寝てしまうという大失態を犯す。それも自らの意思でである。
 こんな女探偵が過去のミステリーの中にいたか?

 まだ二冊しか読んでいないにもかかわらず、ミロを通して、ほんの少し
桐野夏生が見えてきた。

 そして「ローズガーデン」がある。短編集だ。これも村野ミロが主人公。
今までの路線を引き継いでいる。

 そして「ダーク」も村野ミロシリーズである。
ここに至って、ミロは凶悪なる毒を放ち出した。これは探偵小説でもなんで
もない。困惑する読者…。
 そして、ほくそ笑む桐野夏生…。



 今回、私は、作品の内容については殆ど触れていない。作風についても
ハードボイルドを否定した以外は書かなかった。私が感じた、いわばうわば
みだけをすくって並べてみた。

 誘い水である。