yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

世界の中心で愛を叫ぶ


「世界の中心で愛を叫ぶ」 片山恭一 小学館文庫

今更かよっって感じもするのだが、いわずとしれた大ベストセラーである。
三百万部以上もの販売部数を誇った本作品が文庫本になったので
さっそく読んでみた。

で、思ったのだが、考えていたよりもあっさりした内容だった。
主人公の二人は高校生。しかもほぼプラトニック。
あれだけ映画もヒットし、白血病だとか、彼女が死ぬだとかって情報が
嫌でも入ってきたので、かなりの先入観が入り込んでしまった。

間違いなくお涙頂戴ものかと思いきやそうではなかった。
恋人の死、かけがえの無い人との別離、手垢まみれになっているテーマ
だが、「死」や「別離」というのは人にとって普遍的なテーマとも言える。

一見するとかなり重いテーマだし、臨終時の状況だとか、最後の二人の
会話だとかで、読むものを思いっきり泣かせて臨場感を煽るというのが
一般的なる手法だ。

しかし、この小説からはさほどの悲壮感は感じられない。たしかに切なさ
はひしひしと感じられるのだが、激痛をともなうような哀傷は薄いオブラート
に包み込まれている。

その要因として二人の若さがあげられる。朔太郎とアキ、ともに高校生だ。
病状の進行をくどくどと、しつこく描いてないこともそうだろう。
そして臨終の描写は一切ない。

物語はアキの死後からはじまる。彼女の両親と朔太郎は、アキの遺灰を
もってオーストラリアのアボリジニの聖地に向かう。
そこにアキの遺灰を撒くのが彼女の遺言だった。

そこから朔太郎の回想という形で物語が始まるのだ。
過去の楽しい思い出と、アキの死という現実を行き来しながら物語は進行
する。


そして最終章。
何年か後、朔太郎はある女性とともに、アキとかよった中学校に来ていた。
大人となった朔太郎は、恐らくその女性と人生をともにするのであろう。
ガラス瓶の中に持っていたアキの遺灰を、朔太郎は風に飛ばした。

愛する者を失った悲しみは想像を絶するであろう。しかし、残されたものは
その哀傷を受け止めつつも、生きていかなければならない。


今回、この本を読んで思ったのだが、あまりに先入観を入れて読むのは
とまどうばかりだ。おそらく映画はまったく違った演出をされているのだろう
と想像する。しかし、映画的な先入観があったせいで、かえって小説的に
読めた事も確かである。