yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「アルゼンチンババア」よしもとばなな

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アルゼンチンババア」 よしもとばなな 幻冬舎文庫
絵 奈良 美智

昨日、買い物に行ったついでに、ふらりと本屋に寄った。
寄る前は買うつもりなどなくても、たいていは買ってしまう。
ま、給料日前だから良いかと、気楽に構えて、あちこちを見て回った。

文庫の山積みに、篠田節子さんの本を見つけ、手に取る。
私にとって無条件購入、安心買いの作家である。
裏表紙を眺めながら、知らないうちに二冊文庫になっているのを
確認すると、棚から探し出し、これも購入決定。

再び、山積みに戻る。
よしもとばななさんの「アルゼンチンババア」を発見した。
映画になっているやつだな…。それほどの興味は無かったのだが、
手に取って見た。

薄い…。 しかも厚紙…。
80ページしかない…。 最期の何ページかは絵が付いていた。
子供が書いたような絵…。 しばらく見入っていた。

大人になると、子供の頃のように絵が描けなくなると聞いたこと
がある。自由奔放な感受性がだんだん無くなってくるかららしい。

子供が描くような、大人の絵…。
実は絵のこのなど、これっぽっちも分からないのだが、なんだか
この絵に引き込まれて購入した。


すぐに読んでしまった。
至極簡単なストーリーなのだ。 

語りべの「私」と父、母は三人家族だった。「私」が18歳の時、
母は死んだ。 「私」を母の死を受け止めたが、父は逃げた。

母の死後、父は忽然と姿を消した。そして父が見つかったのは、
街のはずれ、皆がアルゼンチンビルと呼ぶ、廃墟のようなビルで
アルゼンチンババア」と暮らしていた。

「私」もアルゼンチンビルに乗り込んで行く。文句の一つも
言いたかった「私」も、アルゼンチンビルの不思議な空間と、
アルゼンチンババアの優しさにとけ込んでいく。


読んだ後に号泣するとか、強烈な感動を味わえるとかではない。
しかし、たった80ページの中に、切なさや、優しさや、死生観や、
いろいろなものが詰まっている。

アルゼンチンババアの本名は『ユリ』だった。
だから私は花屋の店頭でユリを見ると、いつでも涙ぐんでしまう。
そしてその後必ずちょっとだけ笑顔になる。
悲しみよりも、懐かしさよりも、楽しかった事がたくさん頭の中に
よみがえってきて、たとえその日がどんな天気であっても
どんなごみごみした街中でも、奇蹟のように新鮮な空気がさあっと
胸に入ってくるのだ

懐かしく切ない気持ちと、今、こうしてここにいられることへの不思議
な感動の念が体中を照らし、その光は私の中にたまっていた
つまらないことをきれいに洗い流していく。」

~本文より~

上の文章に全てが集約されている。
そして、「私」もいつのまにか、アルゼンチンババアになっているのだと、
私は思った。
ちょっぴり、しあわせになれる小説だ。今、二回目を読んでいる。