yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「八日目の蝉」 角田光代

「八日目の蝉」 角田光代 中公文庫
 
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優しかったお母さんは
私を誘拐した人でした
 
とキャッチコピーがある。
その本の帯に二人の女優さんが写っていた。
芸能人にはとことん疎い私であるが、
一人が井上真央さんであることはすぐに分かった。
 
ドラマ「獣医ドリトル」の中で獣看護師を演じていた。
私は完全にこのドラマにはまっていた。
正義が服を着て暴走しているような、天真爛漫な多島あすか役に
ぴったりとはまっていたのだ。
 
現在彼女はNHK連続テレビ小説の「おひさま」に出演している。
長野を舞台に、戦前から戦後にかけ、明るく生き抜いた陽子役
である。
 
 
しかし映画化されると言うこの「八日目の蝉」ではかなり違う
役どころを見せてくれるらしい。
 
 
 
 
野々宮希和子は、既婚者の秋山丈弘博と不倫関係にあった。
秋山は不誠実な男だった。妻とは別れるつもりもないのに、
言葉巧みにずるずると関係を続け、希和子は妊娠した。
秋山は堕胎を命じ、同じころ、妻は妊娠した。
 
子供を産めなくなり、秋山とも終わった希和子は一目だけでも
自分が産めなかった赤ん坊を見たくて、秋山の家に忍び込んだ。
そんなつもりはなかったが、赤ん坊を連れだした。
 
 
名古屋へ、怪しげな団体へ、そして小豆島へ、
希和子は子供を薫と名付けた。
偽りの親子は、いつ終わるともしれない逃避行を続けた。
しかし、誘拐犯がいつまでも逃亡できるほど日本の警察は
甘くなかった。
 
 
希和子は逮捕され、薫こと、秋山恵理菜は実の両親に返された。
 
 
 
誘拐された子として育った秋山恵理菜は22歳になった。
帰った家庭は壊れてしまっていたし、家を出たものの、
つまらない男に妊娠させられた。
そこに現れたのは安藤千草だった。
恵理菜は覚えていなかったが、二人は怪しげなる団体、
エンジェルホームにいっしょにいた。
 
過去の自分に、これからの自分に向き合うため、
二人は旅立った。
 
 
 
 
殆どのストーリーを書いてしまった。
ミステリーならばネタバレで避難轟々のところであろうが
ここまで知って読んでも十分に感動できると信じる。
 
前半のいつ捕まるかもしれぬスリリングな展開と、
薫からもどった恵理菜の心の葛藤。
実の父も、母も、妹も、自分が帰ってきたことで普通の家庭を
営めなくなった。
家庭は家庭でなく、ただの空間になった。
だから恵理菜は逃げ出した。
 
自分から普通の家庭を奪った希和子を「あの女」と呼び、
しかし、事もあろうか、「あの女」と同じく、つまらない男に
妊娠させられた。
血も繋がっていないあの女といっしょだ…。
 
しかし、倒錯した精神は少しずつ再生していく。
 
 
 
蝉は何年も地面の下にいて、ようやく地上に出たとしても、
七日間しか生きられないと言う。
しかし、八日目まで生きた蝉の見たものは…?
 
作中のラスト、
「この子は朝ご飯をまだたべてないの」
のセリフに私は不覚にも落涙した。
 
偽りの親子のニアミスに深く感動した後、
私はページを閉じた。
久々の名作。
 
 
 
 
 
恵理菜役に井上真央さん、
希和子役に永作博美さん。
小説を読んで、映画を見たいと思わないのだが、
ちょっと見てみたい気がした。
 
それにしても…、
角田光代さん…恐るべし!!