「アカペラ」 山本文緒
山本文緒さんの名を見たのは久しぶりであった。
野生時代という雑誌に、日記のような連載があった。
その連載がいつの間にかなくなり、後で病気になったと聞いた。
私は山本さんの綺麗事ではない恋愛小説が好きである。
記憶が定かではないが、「毒のある恋愛小説」と書いた覚えがある。
私の中では、ハズレ無しの作家のひとりなのである。
無論、即購入した。
短編(中編?)が三作収められている。
表題作の「アカペラ」は女子高生が主人公である。
高校生が主人公の小説にはあまり興味はない。
ないが、物語の視線は女子高生から、担任教師に移る。
やがて、女子高生の複雑な家庭環境と、祖父との関係
において物語は転がり始め、結構引き込まれてしまう。
軽めでコメディーなタッチではあるが、なんとも前向きな
女子高生を応援したくなってくる。
「ソリチュード」では、若い恋愛から逃げた男が20年振りに
帰郷する。その間に父は亡くなっていた。恋愛の相手は
結婚し、一児をもうけていたが、離婚してシングルマザーと
なっていた。
甲斐性の無い男が主人公だと、つい思い入れしてしまう。
主人公が殴られるシーンがあるが、こちらまで痛くなる…。
姉は社長秘書として、病気の弟を支えてきた。
ところが、社内の力関係により社長は後退し、
姉はリストラの憂き目にあう。そんな姉に恋心を抱く青年も
現れるのだが…。
弟の恋人の視線から物語は語られる。
三篇とも毒はない。
でも、どの作品もちょっと切ない。
読後に思いっきり溜息をついたり、号泣したり、激しく感動
したり、怒ったりはない。
でも、なんだかちょっと心が温まる気がするのだ。
山本さんの後書きがある。
執筆活動を6年間休んだそうだ。
ようやく山本さんは復活した。
廃業も覚悟したそうである。でも復活した。
修羅場をくぐった人は強い。
これからの作品に期待する。