yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「果つる底なき」 池井戸順 講談社文庫

 
「果つる底なき」 池井戸順 講談社文庫
 
イメージ 1
 
私が会社の同僚から、「面白いドラマが始まった」と聞かされたのは
大分前の事である。どんなドラマなのか問うと、舞台は銀行で、ある
銀行員が、だまし取られた融資5億円を回収するドラマだと言う。
面白そうだとは思ったが、私はドラマを見る趣味は無い。大体が、
朝の早い仕事をやっている私は、ドラマをやっている9時以降の時間帯は
寝ている。ところが何故かそのドラマは夕方再放送され、偶然私の
目に留まる事になったのである。
 
もうお分かりだと思うが、これが、最終回で視聴率40パーセントをたたき出し、
社会現象にもなったドラマ「半沢直樹」である。その後私は珍しくドラマにハマる事
になる。
 
リアルタイムでは見られないので毎週、毎週録画をセットし、翌日楽しみに鑑賞した。
権力に翻弄され、屈辱を味あわされ、押しつぶされそうになりながらも、半沢直樹
立ち向かい、巨大権力を屈服させる。現実社会でもありそうなスチュエーションの中、
「やられたら、やり返す。倍返しだ!」の名台詞で、ドラマは大いに盛り上がった。
ありそうなスチュエーションでも、こんなドラマの様な展開はありえない。実社会で
勝つのは常に力のある権力者で、底辺近くにいる者がこれを屈服させることなど
絶対に無い。それが展開されるから、見ている方は溜飲を下げるのだ。
 
この原作が、池井戸潤さんの「俺たちバブル入行組」と「俺たち花のバブル組」である。
この作家の名前は知っていたが、実は読んだ事が無い。企業小説の人なのかと
思いつつ、江戸川乱歩賞受賞作家であった。つまりミステリーがデビュー作なのだ。
そしてそのデビュー作が本書である。
 
 
 
この作品でも主人公は銀行員である。
事件は、債権回収担当の坂本の死で始まる。坂本は主人公の伊木遙に対し、
「なぁ、伊木、これは貸しだからな」
と言う、意味不明の言葉を残して死んだ。坂本が死んだのは蜂に刺された事による
アナフィラキシーショックであった。事故なのか、事件なのか分からぬまま、伊木は
坂本の業務を引き継ぐ事になる。
 
坂本は何かを追いかけていた。坂本と同じ様に、伊木は坂本の死因を追いかけた。
彼の前に立ちはだかったのは企業の利権を巡った暗躍と謀略である。伊木はどう
立ち向かうのか。
半沢直樹」と違い、殺人や暴力も加味されている。少しずつ暴かれる真実に興奮し、
エンディングに向かうにつれ、エキサイティングな展開がさらに読む手を進ませる。
なるほど、ここから、半沢直樹が生まれたのだな…。
ミステリーなのでいろいろ語れないのが残念なのだが、私には久々の傑作と思った。
 
 
山崎豊子さんが亡くなった。
限りなくノンフィクションに近いフィクションで、社会に対し強く警告を発した人であった。
池井戸さんの作品は確かにエンターテイメントではあるが、山崎さんの様な作家になってくれないか、と期待している。