「下町ロケット」 池井戸潤
以前から楽しみにしていた本の一つだ。ドラマ「半沢直樹」でその名に注目、江戸川乱歩賞受賞や、吉川英治文学新人賞受賞、直木賞受賞などの輝かしい実績を誇る作家、池井戸潤。その直木賞受賞作品が本作であり、書店では「待望の文庫化」のPOPの下、これでもかと言う程山積みされている。
書店は絶対に売れると言う確信があるから大量陳列をするのである。私はひねくれものなので、こういう大量陳列された作品を避ける傾向がある。みんなが大騒ぎするものには抵抗があるのだ。なんと歪んだ性格かと自分でも呆れるが、今回は違った。文庫本が発売されたその日には購入していた。
私はテレビもあまり見る習慣が無い。ドラマになどほとんど興味は無い。それが「半沢直樹」にはどっぷりと浸かってしまった。堺雅人さんの大ファンになり、池井戸潤さんの作品に魅了された。「半沢直樹」の原作である、「オレたちバブル入行組」、「オレたち花のバブル組」はもちろん、江戸川乱歩賞受賞作の「果てつる底なき」、短編集の「銀行狐」、企業都市を描いた「架空通貨」と読み進めた。
ところが仕事の都合で読書の時間が無くなり、停滞する。他にも池井戸作品は手元にあるのだが、どうにもならない。ようやく正月休みが入り、元旦に一気読みしたのが「下町ロケット」である。
佃航平は宇宙ロケットの研究者であった。しかし彼が心血を注いで開発したロケットエンジンの「セイレーン」は、ロケット打ち上げに失敗し、海の藻屑と消えた。責任は佃に押し付けられ、彼は研究者の道を諦めた。
佃は父親の死をきっかけに、彼の父が経営していた「佃製作所」を受け継いだ。彼が持っている研究者としての技術の高さにより、業績は伸びていくが、ある大企業から特許侵害の訴訟を起こされてしまう。理不尽な訴訟だったが、向こうには専門知識を持った弁護士団が控えている。
有力な取引先がなくなり、資金繰りに困窮する佃製作所だが、技術力の高さは確かだ。その特許を狙って別の大企業が触手を動かす。
次から次へと訪れるピンチに佃航平は翻弄される。そしてこれを迎え撃つべき佃製作所も一枚岩ではなかった。若手を中心に内部分裂が進む。経営者と言うより、研究者に近い佃の姿勢に批難が集中した。これで大企業と渡り合えるのか。佃の苦悩は続く。
左手で文庫本を持ち、右手の握り拳に力が入る。大企業の理不尽な行動に怒りが込み上げてくる。それは「半沢直樹」と世界観が酷似している。パターンは分っていても手に汗握る。
決して一枚岩ではないが、矜持を持った男たちの反撃が始まる。
歳を取って涙もろくなったせいか、それとも作品がそうさせるのか、私はこれを読みながら何度も落涙した。そして感動の大団円。今度は歓喜の思いが拳を握らせる。正月元旦からとても良い本を読んだ。これこそが、私がいつも読みたいと思っている「人間のドラマ」なのだ。
絶対に面白い小説です。
そして、
皆様、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。