yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

嫌われ松子の一生 二



嫌われ松子の一生 二



 松子が勤めるトルコ風呂の経営方針が変わった。松子はトップの座を奪
われた。松子は常連の小野寺保と組み、彼をマネージャーとして、店を変わ
った。
 変わった先の店の仕事は過激だった。一日に十人以上もの客を取った。
松子は小野寺の持ってくる覚醒剤で、疲労を誤魔化しながら働いた。
 自分の体力や年齢の限界を考えた松子は、小野寺にいっしょに小料理
店をやる話しを持ちかけるが、釈然としない。
 やがて、松子の稼いだ金を小野寺が他の女に貢いでいるのが発覚し、
口論から、松子は小野寺を殺害してしまった。

 またしても自殺を考えた松子は、東京に飛ぶ。太宰治が自殺したと言う
玉川上水を眺めるが、そこはすでに人間が死ぬほどの水量は無かった。
 挙動不審の松子に島津が声を掛けた。島津はほんの親切のつもりだっ
たが、二人は男女として結ばれた。
 理容店を経営する島津の内縁の妻として、ほんの一時だけ過ごした松子
は殺人容疑で逮捕された。


 以下、物語は後半に入るが、簡略化する。


 松子は八年の実刑を、五年で仮釈放を取るが、身許引受人を実弟の紀
夫に断られ、島津に拒否されて自暴自棄となり脱獄未遂をする。結局、
八年勤めなければならなかった。
 出所した松子は刑務所内で習得した美容師の技術を生かして、「あかね」
と言う店で働くようになる。そこで再開したのが、かつての教え子、龍洋一
だった。
 二人は結ばれ、共に暮らすようになるが、龍は覚醒剤の運び屋だった。
松子の必死の願いで龍は組織を抜けようとするが、二人が逃げる道は、
覚醒剤所持、使用で、逮捕され、刑務所に入るしかなかった。

 一足先に出所した松子は龍を待った。しかし出所した龍は松子を選ばな
かった。自分では松子を幸せに出来ないと言う理由で…。


物語はまだしばらく続く。しかし、もうこの辺で充分であろう。
松子は中学教師をしていたとは言え、聖人君子のたぐいではない。気が
強く、妬ましく、時に浅はかである。
 その浅はかさ故に、教師をやめさせられ、家を出て、下らない男に迷い、
弄ばれ、肉体を売り飛ばし、法を破り、人を殺し、塀の中の住民となり…。

 列挙するに、どうしようもない女ではないか。しかし、この女を卑下し、軽
蔑し、嘲弄したりは出来ないのは何故であろうか?
 それは松子の愚かしさの中に、自分を写し出してしまったからである。人
の愚かしさをまるごと笑い飛ばせる程、私は正規なる生き方をしていない。
松子の愚直なる生き方に呆れながらも、心の奥底でシンパシーを感じてし
まうのは、多分私一人ではないと思う。
 それに、松子は愚かだが、前向きだ。直向きだ。自分がどれだけどん族に
落ちようとも、どこからか光明を見出し、「蜘蛛の糸」のカンダタの様に縋る。
 しかし、五十歳を過ぎた松子は、人生を捨てたように見えた。何もかもを喪
失させてしまったような松子でも、一筋の光明を見出していくのだが、そこで、
物語はあまりにもあっけなく終わる。

 松子の肉体は崩壊する。しかし、その魂は空を飛び、死んだ妹とも父親とも
会う事が出来る。ようやく家に戻れた松子が言うのだ。

「ただいま」

 単純な中年男はここで落涙を止められない。笑って欲しい。久し振りに小説を
読んで泣いた。

 自分の人生に、ちょっと迷っている人はいないだろうか?
 自分の生き様に意味を見出せない人はいないだろうか?
 自己の存在そのものに疑問を持っている人はいないだろうか?
 そんな風に思う事を、青臭いガキの戯言と吐き捨てる人はいないだろう
か?


 是非、お勧めする。
松子に会ってきたらどうか?
お勧めする。