yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「おめでとう」川上弘美 新潮文庫

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「おめでとう」 川上弘美 新潮文庫

短編集である。十二編収められている。
短編集と言うよりも、ショートショート集と言った方が正しいかもしれない。
どっちでも良いのだが、不思議な味わいがある。


スープに例えてみよう。

例えば、一口啜っただけで、素晴らしい味のスープがある。
それはそれで良い。美味いのだから文句は無い。

が、一口啜った後で「?」となるスープがある。
まずい訳ではない。いやむしろ美味い。
美味いのだが、「?」なのである。
「?」な訳だから、もう一口啜ってみる。
もう一口…、もう一口…、もう一口…。


写真に例えてみよう。

風景画を撮る。
用意するのは高級一眼レフカメラ
当然三脚に据え付ける。

構図はどうか?
光線の具合はどうか?
風によるぶれはどうか?
ありとあらゆる撮影要素に神経を注ぎ込む。
条件が整ったところで、更に露出を買えて何枚も撮る。
選りすぐりの一枚を選び出す。

お散歩写真を撮ろう。
コンパクトカメラがいい。
ズームなんかいらない。単焦点レンズで良い。
ストラップで首からぶら下げて行こう。

子供たちが走っていく。
ちょっと失礼…パシャ。

道端に咲いてる花がある。何て花だか知らんが…。
とりあえず、きれいじゃないか。パシャ。

今日はお祭りだったか、御神輿だ。これもパシャ。
今度ははっぴ姿の子供たち、これはいいね。パシャ。


風景写真が長編小説ならば、
お散歩写真はこの本の小説のような気がする。

どの作品にも登場人物は二人しかいない。
二人のある日常を、ほんの少しだけ切り取って見せる。
川上さんは詳しいディテールなど一切書かない。
文章は相変わらずとぼけている。
学校の先生が大好きな「主題」と言うのが分かりくい。
読者の数だけ「主題」が表れ、先生はきっと困る事だろう。

細かい書き込みもなく、心理描写もない。
それでも読者の思考はいろいろなところへ飛ぶ。

川上弘美さんは、女性読者が嵌りやすい作家だと聞く。
私の本のストックの中にも、スープのおかわりが溜まっている。