yokohamanekoの日記

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「私は負けへん」日高ようこ

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「私は負けへん」 日高ようこ 駒草出版
~本当の名医に出会うまで~


この本の著者は作家ではない。ごく普通の主婦である。
少なくとも彼女が二十九歳で発病する前までは間違いなくそうだった。
大阪で生まれ、大阪で育ち、今も在住する。

彼女が発病したのは二十九歳。症状は「めまい」だった。
上下に回転するようなめまいに襲われ、彼女は動けなくなった。
医者の診断は「異常なし」、「原因はストレス」。

このお決まりの見立てに、実に八年間も地獄を見なければならなかった。
どこの医者に行こうとも、言われることは同じだった。症状は悪化する。
原因は分からない。原因が分からなければ病名など分かるはずもない。
医者は繰り返す。「異常なし」、「原因はストレス」。

怒りは頂点に達するも、彼女の体を救ってはくれない。
病気は彼女の人間関係を破壊した。肉体をこの上もなく脆弱させた。
そして彼女の精神をも壊した。

当時すでに結婚し、男の子の母親になっていた彼女は、夫に離婚を
申し入れた。すでに家庭人として生活する事は不可能だったのである。

しかし、夫は拒否した。

「悔しいけど、健太にとってお前は必要や。健太は、寝たきりのお前や、
しんどくて当り散らしているお前でさえ、ママと思っている。心から、
お前が元気になって一緒に遊ぶのを楽しみにしてるねん。わかるか?
なんにもできなくても、お前はとりあえずおったらいいねん」

「今のお前は、本当のお前と違うやろ。ずっと、考えてきた。お前はもう
本当のお前じゃなくなってしまったんか?実際俺にも分からんかった。
でも病気や。治ったらきっとまた本当のお前に戻れる」

夫は、地獄でのたうちまわる妻に、決して切れない蜘蛛の糸をたらした。

しかし病気は彼女を嘲笑った。
またしても続く誤診の繰り返し、病状の悪化…。

そんな最悪の状況の中で、彼女はある医師と出会う。

これからの事は本を読んで欲しい。医師との出会いで、彼女の容態は
奇跡的に復活するがいまだに闘病中であることに変わりはない。



思うにこの本は闘病記ではない。敵の正体も分からずに戦えるはずはない。
彼女は正体不明の敵の仕打ちにひたすら耐えるしかなかった。言ってみれば
耐病記とでも言った方が正しい。
敵の正体は「右傍矯正中症候群」(うぼうきょうせいちゅうしょうこうぐん)
だった。95パーセントの医者が理解不能という信じ難い病気である。
今、彼女はこの病気を世に知らしめんと、本を書き、声を大に叫んでいる。

この本は二百ページにも満たない。作家ではないから、緻密な文章など
なく、平易なる表現で、文学的なる比喩なども皆無である。
しかし、何事かを一生懸命に伝えようとする熱意はどこのページをめくっても
感じられる。
親との絆、子どもとの絆、夫との絆。病気が無残に打ち砕いたそれらを、
少しずつ再生させてゆくその様に感動を覚えているのは私一人ではないはずだ。

彼女は二十九歳から八年間、人として、女として、成熟の極みに立つ大事
な時を病気によって奪われた。同じ時は二度とは帰ってこないが、意味を変え、
内容を変えた時は、必ず彼女に戻されると切望する、いやそうなるに違いない。

浅田次郎の小説のくだりにこんなのがあった。
「不幸の数だけ、ちゃんと幸せになれるよ…ほんとだよ…」
「椿姫」収録「シェ」より


つべこべと能書きを書き綴った。しかし私の言いたいのは簡単な事である。

この本、本当に良いです。読んでみてください。

今、彼女はブログでも頑張っています。↓
http://blogs.yahoo.co.jp/watamake25