yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「光ってみえるもの、あれは」川上弘美

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「光ってみえるもの、あれは」 川上弘美 中公文庫


最近、すこぶる本を読むのが遅くなった。今年になってからまだ二冊しか
読んでないではないか…。もっとがんばらなくちゃ…。

前に書いたかもしれないが、前の記事とかを確認とかすると、つい影響されて
思考が引き摺られるので見ない事にしている。重複していたらごめんなさい。

本の好きな人と、本の事を語るのは楽しいものである。共通の愛読書や、
作家がいればなお楽しい。また新たなる作品や作家の発掘というのも
楽しい。そうなると作家の作風をどう説明するかというのは大事なポイント
になってくるだろう。

私は川上弘美さんの作品を何冊も読んだ訳ではないが、読んだ本はかなり
気に入っている。ならば人に勧めたくなるのは人情であろう。
そこで川上弘美と言うのはこんな作家である、と説明する必要性がでてくる。
しかし、説明しようとすると言葉に詰まる。私のボキャブラリーの貧困さもさる
ことながら、これほど作風を説明しにくい作家もいない。

ない頭をふりしぼり、考え抜いてもちょっとうまい言葉で当て嵌める事ができない。
これほどに独自の作品世界を持っていながら、それにぴたりと当てはまる言葉
が見当たらない。四苦八苦の末に、「ま、読んでみればわかるよ」と逃げをうつ事
になる。


そんな不思議な作品群の中から、「光ってみえるもの、あれは」を読んだ。

主人公は高校生、江戸翠(みどり)君。名は女のようだが男である。母親と祖母
との三人暮らし。母に婚姻歴はなく、しかし実の父親の大鳥さんは江戸家に
しょっちゅう現れ、さらにしかし、母には別に恋人がいた。

物語はこのへんてこなる家族の紹介より始まる。このなにやら複雑そうな家庭
環境にあって、翠君はしかし実に普通の子であるという。
翠には花田という親友がいる。平山水絵という彼女もいる。担任は北川先生。
なぜか小説中ではキタガーと表記される。主な登場人物は以上。

物語は全部で十二、連作短編集と言えるのだろうが、一つ一つの作品に特に
強い独立性があるわけではない。淡々としているのだ。川上さん得意の
現実離れした幻想的設定は、今回はない。比較的、現実的に物語は進む。

語りは翠君の一人称。相変わらず心理描写は殆どない。その分、読み手は
作品世界の中で遊ぶ事が出切るとも言えるかもしれない。内容的には、家族
小説と青春小説がうまく組み合わさっていると思う。

父、母、祖母、家族の話が前半に、そして花田と平山水絵、キタガー君が登場
する後半の物語。生きるってなんだ?という、恐らくは小説の永遠なるテーマ
をまだ人生の未熟者である翠君が、考えていく。

たくさんの詩が散りばめられているのもこの小説の特徴だろう。詩にあまり興味
の無い私は安易に読み飛ばしてしまったが、巻末に出自が出ており、じっくりと
読むべきだったと反省する。

物語の中に大事件があるわけではない。酷い悪人も出てこなければ、別に
人が死んだりするわけでもない。淡々とはしているが、川上ワールドにしばし
浸って、遊んでみるのも一考ではないかと思う。