yokohamanekoの日記

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「ひとり日和」青山七恵

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「ひとり日和」 青山七恵 文芸春秋三月号
第136回 芥川賞 受賞作


芥川賞のニュースを見て驚いた事がある。
選者のひとりである石原慎太郎氏の選評だ。
「都会で過ごす若い女性の一種の虚無感に裏打ちされたソリテュードを、
決して深刻にではなしにあくまで都会的な軽味で描いている」
とあった。

今まで、辛辣なる選評で、殆どの作品を酷評してきた石原氏が絶賛した
とある。これは是非読んでみたいと、文芸春秋の発売を心待ちにしていた。
すると、2月10日の新聞に、なんと全面広告が出た。
芥川賞 全文掲載 石原慎太郎村上龍 両氏が激賞」の大見出し。
これに受賞者である青山七恵さんの全身写真まで出ていた。
ものすごい煽りまくりようである。

そんな訳で速攻買って読んだ。


三田知寿(ちず)は20歳のフリーター。母親が仕事で中国に行く事になり、
遠縁の吟子さんに預けられることになった。吟子さんは71歳。

春夏秋冬と物語が続く。別段、凄い事件が起きるわけではない。
日常生活の切り取り。20歳と70歳の同居である。しかも女同士。
知寿は彼氏の浮気現場にでっくわしちゃったり、別れたり、新しい男に
心ときめいたり…。
20歳の感受性は、へこんだり、立ち直ったり、またへこんだりする。
若さの不安定さは、彼女の軽い盗癖になって現れる。人の物を自分が持つ
事によって、その人を思い出して繋がる。

吟子さんは別に素晴らしいアドバイスなんぞをくれるわけではない。
ただ淡々としている。20歳と70歳の微妙なるジェネレーションギャップ。
でもかみ合わない組み合わせが、なんだか滑稽でおもしろい。

文体は一人称。堅苦しくは無いが、軟らか過ぎもしない。
著者が23歳という若さもあって、おじさんなんぞにゃ到底分からぬ感受性の
描写が細かい。知寿の瑞々しくはあるが、未熟な思考はあちこちに揺れ動き
はらはらさせられるが、やがて前を向き出す。

吟子さんの家の窓からすぐ近くに駅のホームが見える。外界が見える窓が
印象的だ。意識してるのかどうか分からないが、結構こう言う細かい配慮が
憎い。「ひとり日和」というタイトルもイカす。

同年代の方が読んだ時に、元気をくれる作品ではないかと思う。
劇的なる効果をもたらすものでなく、じわっと効いてくる元気…。
そんな気がする。

良い小説だと思う。次作にも期待する。