yokohamanekoの日記

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「天窓のある家」篠田節子

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「天窓のある家」 篠田節子 新潮文庫

久し振りに篠田節子さんの作品を読んだ。

一時ハマりまくってしまったことがある。ハズレなしの安心買いであった。
SFあり、ミステリーあり、恋愛あり、コメディーあり、多彩なる作品群が
あるのに、どれも面白い。ま、ジャンルなどで括る必要のない作家である。

弥勒」「ゴサインタン」「夏の災厄」などの大長編に評価が高いが、本作や
「家鳴り」「レクイエム」などの短編集も切れ味鋭い。

本作は九つの短編が収められている。

トップバッターの「友と豆腐とベーゼンドルファー」で早くも強烈に打ちのめされた。
足元を見ないで正義を振り回す夫に、妻は空前絶後の鉄槌を食らわせた。
どんな鉄槌を食らわせたか、読めばきっと拍手喝采、共感を得るはずだ。
これに勢いをつけてしまった私は、本を手放せなくなった。

「パラサイト」では自立の意味を、そして寄生虫と呼ばれる人間の定義を
問いかける。

エリートOLとして、妻として、母として、常に完璧を求めた女は、やがて
「手帳」に縛り付けられ、自分自身を失っていく。

表題作「天窓のある家」では、人の幸福を妬み、しかしその幸福を失う事への
同情という、相反する感情を持つ女の、自己崩壊を描く。

「世紀頭の病」は、猛毒なみのブラックユーモアである。

それ以後も、傑作が続く。
個人的好みではあるが、今回もハズレなし。


人間は綺麗事だの、正論だのだけでは生きていけない。
炙り出せば、邪悪なる心はいくらでもでてくる。だからとて、決してそれだけ
でもない。本作は不安定でアンバランスな人間像を切れ味鋭く描いている
と思う。



「友と豆腐とベーゼンドルファー
「パラサイト」
「手帳」
「天窓のある家」
「世紀頭の病」
「誕生」
「果実」
「野犬狩り」
「密会」