yokohamanekoの日記

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「ぼくは痴漢じゃない!」鈴木健夫

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「僕は痴漢じゃない!―冤罪事件643日の記録」
鈴木健夫 新潮文庫


周防正行監督の「それでも僕はやっていない」という映画がある。
たまたま周防監督がラジオに出演し、映画製作に関わるあれこれ
を話していたのを聞いた。

「それでも僕はやっていない」は日本の裁判システムについて、
言及している映画であるらしい。(私自身は見ていない)
周防監督はある冤罪事件を機にこの映画を作った。
その冤罪事件とは痴漢行為だった。

ある男性が、電車内で痴漢と間違えられた。当然やってないの
だから、説明すれば分かると、警察に行くが、即座に逮捕され、
監禁、拘留された。
頭ごなしに自分は犯人であると決め付けられ、でたらめな調書を
取られ、起訴され、裁判に掛けられた。
幸いに、無罪を勝ち取るが、膨大なる時間と、多くの犠牲を強いられる
こととなった。
この男性はこの体験を本にし、それを周防監督が見て、憤りを感じ、
義務として映画を製作した。

その事が記憶の片隅にあり、書店でこの本をみたときは、映画の原作本
なのだなと思って購入した。後で違うことが分かったが、内容はほぼ同じ
であろう。


冒頭を読み始めてから、すぐに私の怒りは頂点に達してしまった。
これは、日本の事なのか?
この本はフィクションなんじゃないか?
文章はあまりにも過激だった。警察に対する憎悪が行間から
滴り落ちるように感じた。
これが北朝鮮だとか、中国だとか、言うなら話はわからないでもないが、
ここは法治国家の日本ではないのか?

著者の鈴木氏は電車内で痴漢と間違えられた。
女性は鈴木氏の腕とつかみその旨を伝えた。駅員によって拘束され、
警察を呼ばれた。署まで同行するよう求められた鈴木氏は「任意か」と
問うと、警察は「任意だ」と答えた。

しかし鈴木氏は逮捕された。逮捕も告げられず、逮捕状の提示もなく、
無罪を告げるが、罰金5万円を払わないと、10日間の拘留になると、
脅かされる。
通常、逮捕者は警察に48時間、検察に24時間、身柄を拘束され、それ
でも取調べが続くときは10日かんの拘留を申請後、それでも駄目なら
さらに10日間の拘留をされる。
つまり、最高で23日間も身柄を拘束されることになり、そんなことをする
くらいなら5万円払って、楽になれ、という取引なのだ。

道路交通法で、一時停止を止ったの、止らないのというレベルの話しではない。
一般の社会人が23日間も何もしないでいられるはずがない。しかもそれが、
痴漢の容疑となれば、その人間の社会的地位は無くなるに等しい。

しかし鈴木氏は正義を選んでしまった。その後、鈴木氏は「無罪」という
正義を取りもどすために、643日の時間と、会社での仕事を失うことに
なる。

弁護士が呼ばれ、警察の杜撰な行為が明らかになるにつれ、読むほうの
ボルテージも上がる一方なのだ。鈴木氏は「無罪」というあたりまえの判決
を得るために、膨大な犠牲を強いられた。警察に対する憎悪は凄まじく、
文章にもかなりの誇張があると思うのだが、それを差し引いても、警察の
横暴は酷いものがある。

それと、周防監督もラジオで述べていたが、日本の裁判制度についての
問題である。
刑法には「疑わしきは罰せず」という大前提があると思っていた。

実は違うらしい。

日本の刑事裁判での有罪率は実に99.86%になると言う。つまり、
逮捕されて、起訴されたらまず有罪になる、ということなのだ。
日本の警察が優秀だからか? それなら文句はないが、この本を読んだ後
でそんな戯言は信じられなくなる。
これだけ犯罪が多発している中で、いやだからこそ、誤認逮捕が千人に
1人ということがあるだろうか?
逮捕した者は、なにがなんでも有罪にしているのではないか…??


正直言ってあまり信じたくない。
しかし、この痴漢のケースのように、拘留なんかされるくらいなら、
5万円でなんとかしようというのは人情だろう。 しかしこれは犯罪の
抑制ではない。取引だ。だとしたら、この手の冤罪は多数ありそうである。


本の後半はこの事件の担当弁護士が執筆している。我々の常識では
計り切れない「裁判の常識」を教えてくれる。
そんなバカな…と思える事がたくさん書いてある。

毎日、満員電車に揺られて通勤する男性は、読んでおいた方がいい。
痴漢というのは卑劣な行為だ。申し出る女性にしたところで相当の
勇気が要る。だから女性の申し出を重んじるのは大事な事だ。
しかし、疑われた人間の言い分を全く聞かないと言うのはおかしい。


そう言えば、昔読んだ小説の中に、同じ様なものがあった。
ある男性が痴漢の容疑をかけられるが、拘束されるのを嫌い、罰金を
払ってしまった。ところがそれが何故かばれ、会社を馘首になり、
家族は崩壊する。 その崩壊した家族がもとの絆を取りもどすという、
ストーリーだった。最期に相手の女性が和解金目当ての痴漢詐欺だった
事がわかり、ハッピーエンドとなるのだが、現実はそんなに甘くない。