yokohamanekoの日記

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「ツ、イ、ラ、ク」姫野カオルコ

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「ツ、イ、ラ、ク」 姫野カオルコ 角川文庫

恋愛小説の人気アンケートを取ると、必ず上位に入る作品だと聞いた。
先日、文庫本として発売されていたので早速購入して読んでみた。


最初に登場するのは小学校三年生の子供たちである。
森本隼子をはじめとする私立長命小学校、三年生のたわいもない日常が
延々と続く。 おかしな転校生。 好きな男の子の告白のし合い、 黒板に
書かれた相合傘。

これが恋愛小説? 少し展開が読めないが、おそらく、このへんはあとの
物語への布石なのであろう、と読み進める。

やがて彼女たちは中学生になる。
しかし、まだ物語は彼女たちの日常生活から離れない。 彼女たちは
すでに初潮を迎え、圧倒的な精神年齢の差を男子と感じている。
下駄箱に入ったラブレター、生理用品をそれとも知らずに弄ぶ男子。

またしても、これが恋愛小説?が頭を過ぎる。
いや、まだ布石だろう、と読み進める。すでに女の子たちにはその素養
が備わっている。「中学生日記」の様相を呈したままで、物語は一気に
加速した。

森本隼子が二年になると、三年の男子と「お付き合い」をするようになった。
まさにそれは中学生のモラルに則ったプラトニックなものだった。
隼子は彼の事が「大好き」で、その関係に決してエロティシズムが介入する
ことはなかった。
しかし、確実に隼子の中では、女が目覚めていたのである。

隼子は処女を捨てることで、自分を先に進められるのではないかと考えた。
そして、国語教師の河村を挑発した。 河村の若さにみだらな性欲を
感じ取ったからである。 好いてなどいなかった。むしろ、嫌っていた。
そのみだらな性欲を利用しようとしただけなのだ。
これは決して、彼氏に対する背徳ではない、と隼子は考えた。

河村も隼子に対して好感をもっていなかった。子供の分際で…。
思い知らせてやる。順子の挑発が河村の加虐に火をつけた。


十四歳の中学二年生が、十歳年上の教師と肉体関係となってから、
この恋愛小説は始まった。

お互いに、遊びのはずだった。
しかし、隼子は河村によって、自己の女を開花させてしまったのである。
何度も交わるたびに、二人はついに「落ちた」のだ。



「恋とは、するものではない。
落ちるものだ。
どさっと穴に落ちるようなものだ」
~本文中より~


二人は恋に落ちた。愛し合った。
だからこそ、お互いの事を思い、終わらせなければならなかった。
二人の苦悩が始まった。


中学生と教師という、AVにでもそう出てこないスチュエーションは
多分にエロティシズムを孕んでいる。しかしそのエロティシズム以上に
あまりにもピュアだった。


もっと話したいところだが、ネタバレになるのでここで止める。

恋愛と言うものが、モラルなどで規制できないのは周知のことである。
法やモラルで定められない恋を不倫と呼ぶなら、人類の歴史など、
不倫の歴史といっても過言ではあるまい。

そしてこの小説はそんなところでは終わっていない。
後半はみんな、いい大人になっている。
ノスタルジックな展開が次々と起こる中で、隼子と河村にも接点があった。


子供の頃、好きな異性とちょっと指先が触っただけでも、
感電するほどのときめきを感じたのを覚えているだろうか?
今、どんな良い女と(あるいは男と)、あらん限りの濃厚なセックスをしても
とても得られるものではなかろう。


こどもの頃の純真さと幼稚さ、そして結局はそのどちらも決して完全には
消去できないのが人なのだ。

綺麗事を並べ立てるだけでなく、醜さばかりを曝け出すのでもない、
さりとて、充分インパクトのある小説だと感じた。
姫野カオルコさんという作家、「ブスのくせに」に次いで二作目を読んだ。
ちょっと、これから目が離せないな、と痛感している。