藤原伊織さん…逝く
今朝の新聞で見た。
藤原伊織さんの訃報である。
私は藤原さんの作品は「テロリストのパラソル」しか知らない。
しかし、私はその一作で、完全に虜になり、要チェックの作家になった。
ハードボイルド作家という分類が、果たして適切かどうかはさておき、
私が今まで知っていたハードボイルドという概念からは少し違っていた。
ハードボイルドのヒーローは不死身だ。
2、3発の弾丸を打ち込まれたくらいでは死なない。
それどころか、自らの手で、弾丸を摘出したりしてみせる。
ドライヴィングテクニックは超一流で、クールでニヒルな二枚目だ。
一見、女性を冷たそうで、実は、寝床の手練は抜群だ。
勿論、銃の扱いには長けている。
たった一人で、巨大組織に立ち向かい、これを粉砕する。
まるでマンガだ…。
マンガならば、それでいい。
リアリティーを遥かに超えて、超現実の中で展開されるのが、
マンガの役割だと思う。
ハードボイルド小説とは、一線を引いても良いと思う。
ま、むずかしい事はさておき…。
それまでのハードボイルドと、「テロリストのパラソル」は
明らかに赴きを異としていた。
なにがどうちがう? と、問われても、今ははっきりと答えを出せない。
しかし、何年か前に、この作品を読んで、明らかに違う感じ方をしたのは、
確かなのだ。
実を言えば、ストーリーも定かに覚えてはいない。
しかし、主人公は間違えなく、ダサかった。
アル中のバーテンダーだったと記憶している。
落ちぶれて過ごしていた彼を襲うのは、爆弾テロだった。
容赦なく事件に巻き込まれる彼に、元、警察官のヤクザが、
昔の恋人の娘が現れ、彼は進まざるを得なくなった。
途中経過も、結末も今は定かに記憶していない。
ただ、読み終わった後の、あの、なんとも言えぬ感動は今も
忘れていない。
内容を忘れているのに、論ずることは出来ないが、
しかし、登場人物の一人々々に、重い過去があり、
生半可には生きていない…。
きっとそんな事に感銘したのだと思う。
もっと読んでみたい…。
この作家を…。
そう思いつつ、時は流れた。
去年だか、一昨日だか…、
藤原伊織さんが、自分が癌であることを公表した。
それが、どんな形であったかも忘れた。
しかし、各メディアの発表を見るに及んで、
大した事はないんだろう…、と考えた。
それほどまでに藤原さんは飄々としていたと記憶する。
藤原さんは亡くなった。
しかし、癌を公表しても、治療に多くの時間を裂く事はなく、
煙草もやめず、仕事は精力的にこなしたと言う。
自分の作品の登場人物より、遥かに強く、逞しかった。
藤原さんは亡くなった。
たった一作しか知らない私の様なファンにしても残念だ。
しかし、藤原さんの作品はまだあるのだ。
合掌…。