yokohamanekoの日記

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「マエストロ」 篠田節子

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「マエストロ」 篠田節子 角川文庫

先月からヴァイオリンをやり始めた。とは言え、先生にもつかず、
独学で覚えられるほどのシロモノではなく、日々悪戦苦闘している。

そんな中で、久方ぶりに読んだのが本書である。
主人公は美人ヴァイオリニスト、腕は一流半だが、ロイヤルダイアモンド
の広告塔として、常に脚光を浴びていた神野瑞恵。
それは彼女がロイヤルダイアモンドの社長、石橋の愛人だったからである。
豊富な資金提供にささえられて、彼女の名声はあったと言っても良い。
彼女の愛器、グァルネリの代金、六千万も石橋が払った。

そのグァルネリの調子が悪くなった。
グァルネリを売ったマイヤー商会の柄沢の紹介で、瑞恵は称号なき
マイスターと呼ばれる保坂を訪ねる。
修理中の代替として渡された楽器は、素晴らしいものだった。
グァルネリが直り、引取りに行ったその時、楽器の素性を聞いて、
瑞恵は愕然とした。
更にその楽器が瑞恵のために保坂が作ったのだと聞いて、
屈辱感すら覚えてしまった。
保坂はこの楽器を瑞恵に提供したが、瑞恵は断った。


ここから瑞恵の転落がはじまる。

ある事件に巻き込まれ、瑞恵は、石橋の庇護から放り出された。
ほんの一時の恋愛関係にあった、柄沢は自殺した。
大きな庇護を失い、あらゆるものから裏切られ、そこから彼女の
再生が始まる…。


瑞恵は演奏しか知らない女だ。 それしかできない女である。
だから、石橋の手に落ちた。 女が女である事を利用する事、
それを咎めるともりなど、毛頭無い。
しかし、私は、彼女の幼稚な正義感に不快感を覚えた。
それほどに彼女は、世間知らずで、人間関係に疎かった。

そんな彼女が、一般大学の非常勤講師を引き受けた。
その中で、彼女の幼稚な正義は彼女を破滅に陥れるのである。


そして、彼女には一丁のヴァイオリンが残る。
彼女を支えようとする友人もいた。


ラストシーン…、
あらたなる愛器で瑞恵が奏でるのは、ずっと彼女の心の闇に
突き刺さって痛めつけていた、ベートーベンのクロイツェルソナタだった。
ベートーベン作曲、ヴァイオリンソナタ、第九番。

心に突き刺さった棘を引き抜き、音楽に向きあった瑞恵の
演奏は、まさに圧巻である。

とはいえ、これは小説である。音が聞こえるはずがない。
しかし、少しでも音楽が好きで、興味のある方ならば、
きっと篠田さんの文章にのめりこみ、感動できるはずだ。

そして、本書を読み終えた後、CDショップにベートーベンの
ヴァイオリンソナタを買いに走るのも、私だけではないと思う。

ヴァイオリンに関する知識もずいぶんと教えられる。
ヴァイオリンに興味のある方、ぜひどうぞ。
もちろん、小説としてのできは上々である。