yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「ガール」 奥田英郎

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「ガール」 奥田英郎 講談社文庫


直木賞の受賞をもってこの人の存在を知った私は、
空中ブランコ」を読んでみた。

これが直木賞??

こんなやわらかい直木賞もあり?

以来、私は伊良部先生のファンであり、
看護師、マユミちゃんの大ファンである。

内容はと言えば、心病む人々が、
伊良部総合病院の神経科を訪れる。
待ち構えるのは、院長の御曹司、伊良部一郎。
だが、あまりにもあやしい。
看護師のマユミちゃんにいたってはもっとあやしい。

「この人は頭がおかしい!」と思いつつも
なぜか心病む人々は、伊良部を頼らざるを得ない。
強烈なキャラクターに、ハチャメチャな展開が、
実にユーモラスに描かれている。

イン・ザ・プール」で始まったシリーズは、
空中ブランコ」「町長選挙」と三冊の文庫になった。

だから、私のイメージの中で、奥田英郎さんと言う人は、
ユーモアに溢れる小説を書く、というイメージが定着した。

それが覆されたのが、「邪魔 上下」(講談社文庫)である。
これはあるサラリーマンの家庭が崩壊していく様を描いた
ミステリーで、シリアスこの上ない。

登場人物の内面描写、緊張感ある人間関係、
刑事と被疑者との駆引き、伊良部シリーズとは大違いである・・・。

「ララピポ」(幻冬舎文庫)はブログで紹介していた。
暇があったら参照されたし。

http://blogs.yahoo.co.jp/tyler1961_0523/44449909.html


そして今回「ガール」を読んだ。

タイトルはガール、少女であるが、五編の短編に登場する
主人公は全て三十代の女性である。


日本に関して言えば、
女性の生き方は昭和と今では劇的に大きく変わった。
結婚をし、子供を産み育て、家庭を守り、亭主に尽くす。
それ以外の選択肢はほぼない、と言っても過言ではなかった。
それが、女性の社会進出にともない、女性は結婚によらなくても、
能力さえあれば生きていけるようになった。

結婚が選択肢としてあれば、出産も同様である。
その気になれば、結婚もし、仕事もし、出産、育児もするという
欲張りな生き方も出切るようになる。
もっともよっぽど彼女の生き方に理解のある男がいなければ
話にならないにが・・・。

ともかくも、女性の生き方に関する選択肢は増えた。
男性の方がむしろ選択の幅は狭いような気がする。
まだまだ、世間では「主夫」などというものを受け入れる
寛容さは無いような気がする。


さて、この小説には五人の自立した女性が登場する。
既婚者もいれば、独身もいる。シングルマザーもいる。

女性の管理職など認めない年上の、男性部下を持つ
女性課長。
マンション購入に、本来の自分を忘れてしまうキャリアウーマン。
いつまで「イケてる女」でいられるのかに疑心暗鬼する広告プランナー。
母であることを仕事に持ち込まず、独身キャリアウーマンに
やりこまれるシングルマザー。
イケメンの新入社員に心奪われ、メロメロになってしまった新人教育係。


彼女たちは自立した立派な社会人である。
しかし、まだ女性は社会に進出して間もない。
男女共同の過渡期とも言える。
男性はすでに社会での自分の立場を確立し、
それなりにサマになってはいる。
女性とて、それに習おうとしているが認められない。

男性上司が部下を怒鳴りつければ、それは説教になるが、
女性上司がやると、ヒステリーと思われてしまう。

女性が社会人としてのポジションを確実なるものにするには、
まだ時間がかかるらしい。
そんな軋轢が、この作品にあちこちに見うけられる。

それにしても恐るべきは、この本の著者が男性であることである。
男の感性でこれが書けるのか・・・。
奥田英郎・・・・、恐るべし・・・。


そして、伊良部シリーズと、低通していることもある。
この人は、弱者に優しい。

心を病んでいる人、
へこたれているひと、
がんばっても認められない人、

そんな人たちに、ほんのちょっとだけ手を貸してくれる。
でもほんのちょっとだ。
後はヨロシク、と手をひらひらさせながら立ち去る。
宮部みゆきさんにも、ちょっと通じるものがあるかもしれない。

女性が読んだら、どう思うのだろうか・・・。