yokohamanekoの日記

横浜で猫2匹と暮らしております。

「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる

「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる 新潮社文庫
 
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聖書と言う本がある。
誰もが知っているキリスト教聖典である。
宗教の自由を保障されながら、宗教に対する依存度の低い日本には
ちょっと馴染みのない本でもある。
ウチにも一冊ある。自分で購入したものではない。頂いたのだ。
ミニ小六法くらいの厚さがあり、恐ろしく細かい字で表記されている。
若い頃なら読めたが、今では老眼鏡を使わないと見えない。
ともかくも膨大な大長編である事は間違いない。
 
私は信者でもなんでもないが、人間は生まれながらに罪を背負って
生きているのだと言う。アダムとイブが禁断の木の実を食べてからだ。
アベルとカインは兄弟で殺し合った。ノアの方舟伝説やら、バベルの塔
の話があって、ともかくも人は罪を重ねていく。
 
私は聖書を通読した訳ではない。ちょっとかじっただけである。
それでもこの違和感のある世界には独特の緊張を覚える。
同じような感覚を、「九月が永遠に続けば」で得たのだ。
 
 
 
水沢佐知子の息子、高校三年生の文彦が失踪して物語は始まる。
8年前に離婚した夫、精神科医の安西雄一郎は、自分の患者であった
亜沙実と再婚する。
亜沙実は魔性の女であった。彼女が生んだ冬子も同様だ。
男たちは引き寄せられるように狂わされていく。
 
登場人物の数はそう多くないのに、恐ろしくドロドロとした関係だ。
大悪党もいないのに、登場人物は足を踏み外して奈落の底に落ちる。
時と状況によって陥りやすい罠に、皆が嵌っていくのである。
推理小説のようなワクワク感は無い。
真実に近寄るにつれて高まるのは不快感である。
しかし、ハッピーエンドで終わらないところに、妙なリアリティーがある。
 
宮部みゆき作品のように、途中でどんなにストレスが溜まっても、
最後にはちゃんとハッピーエンドにしてくれる作品も、それはそれで良い。
と言うか、そういう作品を私は今まで大好きだったのである。
しかし、いったいこの展開はどうなるのだ? と言う不安の中で読むのも
面白い。散々振り回され、挙句の果てにはおっぽりだされる感覚。
 
 
解説を読んで驚いた事がある。
本作は、沼田まほかるさんのデビュー作である。
デビュー作でこれほどのボリュームなのか!!
 
その後、「彼女がその名を知らない鳥たち」、「猫鳴り」と続く。
つまり、私は「猫鳴り」から逆に読んでいた事になるのである。
そういう読み方も面白いが、今回はただの偶然である。
 
なにはともあれ、沼田まほかる、恐るべし…。
 
しかし、篠田節子作品のように、「絶対お勧め」はできない。
私は篠田節子作品に絶対の信頼を置いている。
本来、読書と言うものは、客観的なものではなく、主観的な
もので良いと思っている。自分が面白ければ良いではないか。
そう言う意味で、宮部みゆき篠田節子は、多くの共通項を持つ。
しかし、桐野夏生はどうか。人気作家ではあるが好き嫌いが分かれる。
 
まほかるさんならもっと分かれるだろう。
だから、お勧めは出来ない。
 
自己責任でどうぞ。