yokohamanekoの日記

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「サイレント・ブラッド」 北林一光

「サイレント・ブラッド」 北林一光 角川文庫
 
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この著者の作品は二作目である。
「ファントム・ピークス」に続いてだ。
舞台が長野県であることで、続編なのかと期待したが、
そうではなかった。
「ファントム・ピークス」の、あの興奮をもう一度、
と思った先走りは、読後に違う満足感に変化していた。
 
「ファントム・ピークス」の帯には、宮部みゆき氏絶賛とあった。
宮部みゆきさんは、社会派ミステリー(古い言葉だな?)の名作を
次々と世に送り出し、その作品感は、弱者をいたわる、所謂、
「宮部ワールド」であった。
しかし、松本清張以後のミステリーを愛する私にとっては、
宮部さんは時々反則をする、と感じてしまう。
 
作中に、超能力者が出てきたりする。
謎解きのストーリーの中で、超能力者がその力を発揮して
物語を変えることはないものの、やっぱりちょっと首をひねる。
ミステリーとしては反則では? と思ってしまったりする。
 
その最たるものが、「蒲生亭事件」である。
なんと、これはタイムトラベルものである。
現代の受験生が、昭和11年の2月26日、即ち2.26事件の現場に
行ってしまうというストーリーである。
 
だが、なぜ私がこれらを反則呼ばわりするのかと言えば、
宮部みゆきを、社会派ミステリーの書き手として断定しているからだ。
超能力やタイムマシンが、化学的に解明され、認知されているならともかく、
それらはSFの世界の話である。
だめでしょ! と思ったりするのだ。
 
ところが、小説を最後まで読み終わってしまうと、なぜか、「ま、いっか」
と言う気持ちになる。
 
物語の途中でなにかひっかかることがあっても、所詮、最後は、
「宮部ワールド」に引き込まれて、満足しているのだ。
それはストーリーテラーとして、やっぱ、天才なのだろうと思うしかない。
今、宮部さんは、ファンタジーや、時代小説も多数作品を残している。
ミステリー作家などと言う、偏狭なところに押し込めなくなっている。
 
ま、結局、実はそんなことは、どうでも良いのだ。
読者は、その作家の「ワールド」に引き込まれて満足したいだけだから。
 
 
さて、本作。
 
沢村一成の父親が失踪した。
父親の車が長野県大町市で発見される。
現地に赴いた一成は、深雪と言う女性と出会い、「オババ」の存在を知る。
オババはなんでもお見通しの力を持っていた。そんなオババが「タケル」
というキーワードを残す。
一成は深雪と父の行方を探るが、これを妨害する勢力が現れる。
 
父親の失踪を機会に、息子は父親の過去探しに出かける。
いくら親子だとは言え、その人生を全部知り得る訳がない。
信じられないような父親の過去に迫りつつも、一成は自分の血に
気づく。 だから、サイレント・ブラッドなのか…。
 
作品中に、超能力を持ったらしき人と、超人らしき人が現れる。
リアリティーを好む読者には、なにやら胡散臭い設定化もしれない。
ところが、物語は紆余曲折して、「カクネ里」なるところへ舞台を移す。
山奥の秘所に、父親の過去はあるのか。
父親は何者だったのか、息子は深雪の力を借りて進む。
後半からはアドベンチャー的要素も絡み、興奮する。
 
 
そうか、この辺にきて、「北林ワールド」に引き込まれたか、と気付く。
つべこべ言ってもしょうがない。後は、物語のエンディングまで、
連れて行ってもらうだけ。
 
「ファントム・ピークス」に比べるとリアリティーは無い。
最近多発している事件だから、怖いと思う。しかし、本作において、
こういうリアリティーは無い。
しかし、物語の面白さが、それを許している。
 
 
この人の作品をもっと読みたいと思う。
でも、「ファントム・ピークス」の記事でも書いたが、著者は故人である。
きっと、ベストセラー作家になれたであろうに…。
とても残念です。 あらためて合掌…。